PhyHirOの物理のあれこれ

物理やって疑問に思ったこと、学生時代に理解しきれなかったことを思うままに書いていくブログです

【物理学】変分原理の不思議【δI=0】

物理学の基礎方程式(ニュートン運動方程式シュレーディンガー方程式など)、変分原理で記載されていることは聞いたことがある方もいるかと思います。

ただ、変分原理とどういった原理なのかを知っているでしょうか?

その内容について今回は整理して説明してみようと思います。

 

1.光はどのように進むのか?

変分原理とは何かを話す前に、まず素朴な疑問として光の進む経路を考える。そのことを説明するには、一般にフェルマーの原理を用いて説明される。

フェルマーの原理とは以下のようん内容である。

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上記で説明されている内容は、すなわち、光の経路は直線となることを言っている。

すなわち、

同媒質中の光の経路は直線となる

    

           f:id:phyHirO:20211017040418p:plain

原理と言われて説明されればそれまでだが、光の進む経路が直線となるのは数学的に説明できないか、もう少し考えてみよう。その為にはフェルマーの原理にある「停留値」と言う概念を知る必要がある。

 停留値の概念・・・ある経路長に対して少しずれた経路長との差が
          2次のオーダーの微小量となって、0と近似できる。

いまいち言葉だけだとわかりにくいので、下図を用いて説明する。

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例1ではAを光源(始点)にA→Bへ光が進んだ時、直進する経路をAQB(l1)、直進しない経路AQ'B(l2)とする。この2経路のうち、結果どちらを選択して光は進むのかを考えることが目標である。その際に着目する内容は2つの経路のズレQQ’であり、この量を用いて2つの経路の差をΔlを表すとすれば、

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このQQ’が停留値として働く。すなわち、QQ’は2次オーダーを0とすれば、この場合、2つの経路に差がなく、AQBと進むので経路は直線となる。つまり、何らかの2つの量に関して2つの量のズレがあり、そのズレが2次のオーダーになっている場合を停留値をとるという。1次のオーダーの場合は0とみなせないので、この場合は停留値とみなさない。(例2)これにより、様々な経路を考えられる中、直線しか選ぶことができないと言っているのがフェルマー原理の主張である。この考え、停留値の概念が変分原理の出発点である。  

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2.変分原理を解析的に

同じような考えを解析的に考えてみよう。その際に、停留値の概念を少し書き直す。

 停留値の概念・・・ある経路長に対して少しずれた経路長との差が
          2次のオーダーの微小量となって、0と近似できる。

              f:id:phyHirO:20211017162135p:plain

 停留値の概念・・・ある関数の経路長に対して少しずれた経路長との差が
          2次のオーダーの微小量となって、0と近似できる。

数学の「関数」を付け加えただけである。よって、2つの関数のズレを評価して停留値をとるとはどのような数式で表すことができるのかを調べる。その為に以下の関数を定義する。

             f:id:phyHirO:20211017171900p:plain

         f:id:phyHirO:20211017171811p:plain

ηはxに依存するズレの関数である。αは適当な変数であるが、y(x)からのズレのオーダーを示し、xとは独立であることに注意してほしい。ここで、この関数の経路、曲線A Bが停留値をとる場合どのような経路を描くかを考える。曲線ABの線素をdsとすれば、経路長Iは

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被積分関数をF(x, y, y')とすれば、

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経路長Iはこの関数に依存するので、経路長Iが停留値をとる場合においてこの積分汎関数Fに関する方程式を立てるのが目標となる。

さて、上記の経路長Iに関してy(x)をy(x)+αη(x)へ変更した場合、yもy’も、ηもxの関数なので、経路長はαに依存することとなる。

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細かいことを言えば、y、y’、ηは[x_1, x_2]で連続かつ微分可能であることを前提としている。また、図から読み取れるようにη(x_1)=η(x_2)=0である。

さて、f:id:phyHirO:20211017173949p:plainを考える。そして、停留値を考えるときので経路長Iの差分を取る。このとき、別関数のズレに対して評価する際には一般的にδを用いる。

αに対して2次のオーダーでテイラー展開を用いると、

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第2項は2次のオーダーなので、停留値の概念から0と近似できるが、第1項には1次のオーダが残っているので、あれ、何かがおかしいのかな?と思うかもしれない。これは特に問題なはない。ここでα=0でδI=0となるのは明確なので、I(α)はα=0で極値をとるということ(Iの変化がない)。すなわち、δI = 0の時、その条件はα=0もしくは第1項の積分が0なので、I(α)が極値を持つのは当然α=0だから、δI=0の条件を満たすのならば、I (α)は極値を持つ。その為、テイラー展開して微分すればいい。

    f:id:phyHirO:20211017181129p:plain

すなわち、δIの第1項の積分部分は既に0であるということなので、αに寄らず以下の通りとなる。(重要)

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注意するのは、確かにα=0でも同じ結果となるが、経路長Iが極値をとるということが重要であるということ。なので、以下の式が重要だということである。

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部分積分を用いて整理すると、

   f:id:phyHirO:20211017183029p:plain

第1項はηにより0、第2項はηが任意の関数の為、{}内が0である必要がある。

したがって、その式には名前がついており、

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この式が停留値を満たす基礎方程式となる。すなわち、変分原理とはこの方程式を満たすことを前提した原理ということである。

 

3. オイラーラグランジュの方程式の扱い方

前説で得られた方程式はFに関する偏微分方程式だが、その実はy(x)を求めるための方程式である。実際に、オイラーラグランジュの方程式を扱うときにはFの関数は既に知っており、その関数の変数扱いとなっているy(x)に対する微分方程式に書き直される。

さて、オイラ・ラグランジュの方程式は以下の通りだった。

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関数 f:id:phyHirO:20211017192149p:plainであるが、解く問題によっては変数(関数)を含まない物をあるだろう。そのため、以下のパターンの場合のオイラーラグランジュの方程式を書き下す。

汎関数 Fがyを陽に含まない

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汎関数Fがxを陽に含まない

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汎関数Fがy’を陽に含まない

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 ※この場合は単なる曲線を表し、境界条件を満たさない。

導出はxを陽に含まない場合のみややこしいが、式を整理すると、赤枠のような綺麗な式変形が可能である。ちなみに、陽に含まないとは、汎関数内には変数として存在しないことをいう。つまり、xを陽に含まないとは、Fはy、y’の関数でxの関数ではないが、y、y’はxの関数であるよということを言っている。よって、この場合、単純にxで微分すると0というわけにいかないことに注意する必要がある。

全て含んでいる場合は、オイラーラグランジュの方程式を単純に解き進めればいいが、

○○を陽に含まない場合は上記の赤枠で示した式を用いると楽である。

 

4. オイラーラグランジュの方程式を使ってみる

1章で考えた光の進む経路の話をオイラーラグランジュの方程式を用いて考えてみよう。

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AとBを結ぶ任意の曲線の長さは上図から線素dsとすれば、

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汎関数Fはというと、         

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この場合はFはyを陽に含まないので、

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C'は任意の定数である。y'に対して整理すると、

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仮にy’>0とすれば、右辺を改めて定数Cとすると、求めるy (x)は右肩上がりの直線となる。(C>0,Dも任意の定数)つまり、以下の式で書き表される。

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要するに、フェルマーの原理を数学的に記述するとしっかりと直線を示すことができる。この2点を結ぶ経路を変分原理として示す問題を最短距離問題という。これは曲線で結ぶよりも直線で結ぶ方が距離が短いという経験的も直感的にも当たり前のことを数学的に示しただけだが、この問題を力学的な問題に当てはめて考えるとなかなか経験的、直感的にもわかりにくいことを理解することができるようになる。その例が最速降下の問題である。

最速降下とは何か?をまず説明しよう。当然だが、空中で物を離すと物は落下する。重力に引っ張られるからということは一般的に知られている話で、物理の逸話としてもニュートン万有引力の法則を発見したという話の中でも木からリンゴが落ちるのを見たからと説明されているくらいよく知られている話だろう。さて、ここで1つ疑問を投げかけよう。その落下する物を適当なレールや滑り台みたいな経路で進む場合には最短時間で滑り落ちるのはどのような経路を通ったときなのか?

                        f:id:phyHirO:20211017202608p:plain

 

要するに、最速降下の問題とは。「重力が働く、摩擦なき経路に置いた物体(ここではわかりやすく質点)を考える。どのような経路(曲線)上であれば、最短時間で転がり落ちるか?」という問題である。この問題を考える上で重要なのは、エネルギーの保存である。質量m、速度vとすれば、

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速度の2乗は各成分x、yの時間tで微分したに記載できるので、エネルギーの保存則をdtで整理すると、

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すなわち、

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これを以下のようにオイラーラグランジュの方程式を解くと、

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yは置換時に算出しており、xは媒介変数uの積分で求まる。これはサイクロイド曲線となる。

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直感的には最短経路である直線ではないかと考えてしまう。このように重力のみが働いている場合ではあるが、変分原理(オイラーラグランジュの方程式を解くということ)を用いることで物を最速で降下させる曲線がサイクロイド曲線であると求める事ができる。

最短経路であれば、最短時間では到着するわけではない!!!

 

 

参考文献

物理数学One point 4 べんりな変分原理  岡本 誠著

 

量子力学から見た古典力学 〜粒子を波として捉えて自由落下を考える〜

量子力学というものがある。20世紀の確立した、今の科学技術の基礎理論と言ってもいいものですが、その前時代、19世紀当時、古典論と呼ばれる、(古典)力学、電磁気学、熱力学(古典統計力学)で物理学はほぼ確立していたと聞く。

そのほぼの部分の未解決問題をクリアすれば、物理学で追求することがなくなるとも言われていた時代(ちょっと言い過ぎかな、でも、そういう風潮があったそう)。その残りの未解決問題を巡り、プランク、ボーア、ハイゼンベルグシュレーディンガー、あとアインシュタインなど(数え上げればキリがないな〜)、そんな多くの物理学者が苦悶して確立された量子力学。その量子力学と古典論の違いは「波と粒子の2重性」を認めるか認めていないかにある。認めたら、量子力学の考え方。認めないのであれば古典論。

ただし、量子力学は古典論を内包している。すなわち、量子力学で物体の運動などを記述することができる!!それは以下の方程式で表現可能なはずだ!!f:id:phyHirO:20210422190856p:plain
この方程式をシュレーディンガー方程式という。その視点で考えたとき、どのように考えられるのか気になって学部1回生の時に、本を探して調べたことを今回の記事にしようと思う。つまり、

この量子力学から見た古典力学、特に自由落下について考えてみよう、そんな記事です。

 

 

 

 

1. 自由落下 〜古典力学ではどうなる?〜

さてまず、古典力学の範囲で自由落下運動について考えてみよう。これは、高校物理の範囲内での説明可能だが、後のことを考えて、微分方程式運動方程式で記述する。まずは運動方程式は以下のように定義される。(1次元の場合)

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mは物体の質量、
Fは外力(重力)、 xは物体の位置の座標、tは時間を表すパラメーター、V( x)は位置ポテンシャル。 自由落下の場合は、外力の大きさF  =  mgであるから(よくあるように空気抵抗や摩擦などは考えない)、加速度はgであり、落下方向をx軸の向きとして座標を設定すると、運動方程式は以下のようになる。

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また、以下の図のように縦軸方向へ物体は落下する。横軸は時間の経過を表す軸。高校物理でお馴染みの等加速度運動(時間のパラメーターに対して2次関数)となる。

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         図1. 等加速度運動

簡単のため、物体の回転や大きさ、空気抵抗などは無視しているが、ここでは重力加速度gで等加速運動をしていることがわかる。古典力学ではこのように時間ごとで局所的に物体の運動を記述することができる。

2. 量子力学古典力学の考え方

量子力学と古典論の違いは「波と粒子の2重性」にあると書いたが、そもそも波と粒子は異なるということはどういうことか?それは粒子と波の取り扱い方が異なるから。空間に局在化して取り扱うのを「粒子性」、空間に遍歴して取り扱うのを「波動性」という。

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        図2−1. 波動性(イメージ)と粒子性(イメージ)

波は空間上に広がっていく、粒子は空間のある一点のみを考える、この両極端な考え方は古典論では完全に別物として考えられてきた。が、量子力学で取り扱う粒子は波として取り扱われる。ただ、落下運動している物体を波として捉えると、非常にイメージしにくくなる。どのような世界となるのかがよくわかりにくい。その為、少し工夫、もとい発想転換してみる。それは、波を収束させて波束というものに考え直して対応付けする。

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          図2−2.波束との対応付け          

つまり、波束を作り、その運動を考えることで量子力学上で古典力学の内容を考察することができる!! 

さて、詳しく見ていこうか、、、

 

※ここからの記事の内容は和田純夫著の『なっとくする量子力学の疑問55』の内容を基に私なりの解釈で記述しています。

3.波束の作り方

さあ、波束を作っていこう。でもどう作ればいいのか、、、わからん!!

そのため、波束の前に波について考える。ここでは1次元の波を考えよう。

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λは波長、kは波数であり、ψの形状はコサイン波である。

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               図3−1.波の描像

これを波数で k 1 と  k 2 を用いて、異なる波数の波を足し合わせ(重ね合わせ)を行なう。

                     f:id:phyHirO:20210403183419p:plain

f:id:phyHirO:20210403215249p:plain,f:id:phyHirO:20210403215315p:plainとして変数を書き換えることで式を見やすくしている。特にk 1 と  k 2 の値がほとんと同じであるとすると、以下の図のような振る舞いをする。

  

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               図3−2.波の重ね合わせ(例)、実践部がψの波、波線部は重みの寄与

 図3-2では、波線部(f:id:phyHirO:20210403213529p:plain)はゆっくりと波打って変化し、実線部(f:id:phyHirO:20210315235947p:plainの寄与)速く波打っていることがわかる。また、波線部はいわゆる重みとして役割を持っており、実線部の振幅が大きくなったり、小さくなったりする。 つまり、波数の異なる波を足すことで波の形状を変化させることができる(波の重ね合わせ)。このことを利用してうまい具合に波を重ね合わせすることで任意の図を描くこともできる(細かいことは省略するが、詳細はフーリエ変換で検索すればいい)。なので、この波の重ね合わせを用いて波束を作ってみよう。

上記で描いた図3−2では足す波の数が少なく、図2−2のような波束は作れないので、無限個の波を足し合わせる必要がある。そのため、積分を用いて以下の通りに表現できる。(計算結果だけ示す、フーリエ変換の公式で調べてみよう)

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           f:id:phyHirO:20210403215550p:plain

f:id:phyHirO:20210403215719p:plainは重みであり、波の大きさを表すが、前述のf:id:phyHirO:20210403215754p:plainの役割と同じ。ではなぜこの様な重みをつけたかというと、図2ー2の形状にするため。この重みの関数はガウス関数正規分布)と呼ばれるもの。積分を実行した後の結果からもわかる通り、f:id:phyHirO:20210403215834p:plainという因子がくっ付いてるが、こちらも同じくガウス関数になる。また、f:id:phyHirO:20210403215719p:plainガウス関数aが大きいほどは幅が小さくなる特徴がある(図3−3)。 

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                                    図3ー3.ガウス関数

では実空間の位置を表すパラメーターであるxに対してはどうか?この場合、f:id:phyHirO:20210403215834p:plainの幅が小さければいい。今度は指数部の逆数にaが存在しているので、幅は2√aになる。すなわち、波束をより質点のように扱うようにするにはaが小さい方がいい。要はピーク位置を重心と捉えたい為、ピーク位置に対して対称性があり、幅が小さければ、それ以外が0と見なせる(特に無限遠)ので都合がいいからガウス関数を重みとして用いている。後は、指数関数のため微積分が計算しやすい利点があるからとも言える。

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      図3−4.波束の作成 オレンジ部が波打ってる部分、黒(青)部は外観形状

4.波束の時間的変化

 さて、波を用いて質点の代わりとして対応できる波束を考えた。今度はその波束が時間変化でどのように変化していくかを考える。その為には、波束のピーク位置が時間に対してどのように変化するかを考える必要がある。そこでピーク位置を<x(t)>と表し、以下のように定義する。

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今回の波束(ψ)には前項ではなかった、時間tが含まれるので、パラメーターとして書き加えた。また、後に出てくる積分計算をしやすくすることを目的にオイラー公式を用いて三角関数の部分を指数関数の部分に書き換えた。オイラー公式は以下の通り、虚数三角関数、指数関数を結びつけた重要な公式である。

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 要するに、f:id:phyHirO:20210418234935p:plainは前項のψの実部のみを記載した内容となり、述べていることは同じことを示す。ωは角振動数と呼ばれる物理量で、振動数に2πを掛けたもの。要するに、1/2π秒を単位として何回波が振動しているかを表した量である。つまり、f:id:phyHirO:20210418234836p:plainは波の時間的な変動(振動回数の変動)を表す。前項まではt=0の場合を考えていたことになるが、t≠0の波束の振る舞いを考える上で重要となる項である。a<<1ならば、波束はピーク位置 x 0 に集中して他の部分は0と見なせるから、結局は


と近似できる。要するに、波束の位置に関する時間変化はピーク位置 x 0 を追えば良いことがわかる。さて、次にピーク位置を時間変化を見る為に時間のパラメーターで微分をする。これでいわゆる、物体の速度を示した量となる。

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とはいえ、今の条件ままで解くのは厳しい。それは波束を表す式、ψを作ったが、その関数の性質について何も考えていないから。そこで早い話、量子力学の考え方で物事を進めているかを確認したいので、ψ量子力学の基本方程式として確立しているシュレーディンガー方程式を満たすことを確認する。満たすのであれば、上記のψ量子力学の考えに則ってよいことになる。さて、ここでおさらい、シュレーディンガー方程式は以下のような式であると最初に書くだけは書いた。            

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V(x)はポテンシャル、mは質量、f:id:phyHirO:20210422182338p:plainディラック定数である。確認のためなので、ポテンシャルV(x)=0として代入すれば両辺が一致することはすぐにわかる。(ポテンシャルが0ということは外力が働いていない状態のため、自由粒子として扱っていると考えられる。)よって、3節で考えてきたψ量子力学の考えに則っていると判断できる。この時、ψには名前があり、波動関数と呼ばれる。

さて、このシュレーディンガー方程式は時間の一階微分を空間(位置)の2階微分に置き換える式としても見ることができる。その為、ピーク位置を時間変化の式を計算するのにシュレーディンガー方程式を利用する。すると、部分積分でごちゃごちゃやって計算することができるようになる。そう、後は部分積分の繰り返しになる。嫌になる…が、やってみよう。

(以下の通り、赤斜線は0または打ち消しとなる部分を示す。※波動関数無限遠方では0となる性質があることに注意。また、V(x)は0としなくてよい。ψ*複素共役を示す。)

ここで、シュレーディンガー方程式の複素共役となる、以下の式を用いていることに注意。

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さて、折角なのでピーク位置の2階微分も考えてみよう。こちらはいわゆる物体の加速度を示した量となる。やり方は先ほどと変わらず、しかし、途中に3階微分が出てきてドキッとする。

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 3階微分については第1項と形を見比べてみて、部分積分を繰り返したら、同じ形になって消えるんじゃね?と思えたら勝ちである。実際、以下の通りに計算を進めることができる。(※波動関数の一階微分も同じく無限遠方では0となることに注意。)

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よって、計算結果は以下の通りとなる。

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ここではV(x)は2変数関数ではないことに着目して、dに書き直している。

うん?、あれ、これはどこかで見たような…、運動方程式と形式が似ていないか?

古典力学運動方程式は以下の通りである。

f:id:phyHirO:20210425120953p:plain

ここで、 

f:id:phyHirO:20210425122815p:plain

  と書き直すと(ピーク位置の定義と同じ考え方)、ピーク位置の2回微分は以下のように記述できる。

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やっぱり、運動方程式と形式が一致することが明確にわかる。 

この結論が「エーレンフェストの定理」と呼ばれる。要するに、物体が量子力学で表される波束で表現した場合において、その波束のピーク位置を時間変化で追うと、それは古典力学の結果と一致する。

つまり、この定理により自由落下の運動を量子力学的に考えることができる裏付けとなる。

※ 今までの話は1次元の場合で考察してきたが、3次元の場合でも成り立つ。

 

5.自由落下を量子力学的に考えよう

これまでで古典力学の内容を量子力学で扱って問題ないということがわかった。

さて、前提話はここまで。ようやく本題。ここから自由落下に関して量子力学で考えていく。

自由落下の系ではハミルトニアンは以下の通りに記述できる。

f:id:phyHirO:20210425131422p:plain

ここでは1章でおこなったのと同様に落下方向をx軸の向きとして扱う。pは運動量、量子力学の要請によって、以下のように定義されているため、上式はその内容を代入している。

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さて、ではまず、シュレーディンガー方程式を記述する。

f:id:phyHirO:20210425132827p:plain

今までと同様にψは波数kの波の重ね合わせで以下のように記述する。f:id:phyHirO:20210425133855p:plainは波の各時刻における重み付けする適当な関数である。(但し、無限遠では0となるものを選ぶ必要有。)

f:id:phyHirO:20210425133627p:plain

これをシュレーディンガー方程式に代入してkに関する微分方程式に書き換える。シュレーディンガー方程式の右辺はただ代入するだけなので、左辺の部分を考えればよい。

f:id:phyHirO:20210425135200p:plain

{}内のxkに変換したいので、無理やり感があるが、f:id:phyHirO:20210425135425p:plain微分で形式が変わらないことを利用する。

f:id:phyHirO:20210425140552p:plain

結局、最後は部分積分を行うと、両端の関数が交換できてしまい、シュレーディンガー方程式は以下のように書き直せる。

f:id:phyHirO:20210425142926p:plain

後はこの式を解けばいいが、ここからは少々、テクニカルである。少なくとも先見の明がいるので、理屈は(まあ、あるが、)深く考えず、流しで見てもらえればいい。

まず、f:id:phyHirO:20210425142555p:plainと置いて、f:id:phyHirO:20210425133855p:plainを以下のように定義し直す。

f:id:phyHirO:20210425144449p:plain

シュレーディンガー方程式に代入して、f:id:phyHirO:20210425133855p:plainからFの関数に書き換える。このようにすると、解く上で邪魔だった2次の項が消えるので、よりシンプルな微分方程式に変換できる。案の定、右辺は代入するだけ、左辺の変更のみを考えると、以下のように計算ができる。

f:id:phyHirO:20210425145413p:plain

よって、シュレーディンガー方程式は以下のように書き直される。

f:id:phyHirO:20210425145839p:plain

f:id:phyHirO:20210425145605p:plainとおいて、見通しのよい波動方程式の形式にしている。この波動方程式はよく知られている方程式で、一般解は以下のように適当な関数を用いて記述できる。

f:id:phyHirO:20210425150400p:plain

この関数の1番の特徴はt=0で以下の式が成り立つことである。

f:id:phyHirO:20210425151125p:plain

すなわち、以下が成り立つ。

f:id:phyHirO:20210425151250p:plain

要するに、この場合、f:id:phyHirO:20210425151658p:plainf:id:phyHirO:20210425151720p:plainと見た時にその関数の形が、単位時間毎にβの割合で(k軸方向に)増加することを指している。βの次元は運動量と同じ次元のため、時間が経つにつれて運動が激しくなること、つまり加速していることを示している(図4ー1)。これについては、今回、x軸を落下方向にとっているので、今の考え方に合っている。なので、最終的には以下の性質を持つ関数が求めていた答えとなる。

f:id:phyHirO:20210425152520p:plain

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       図4ー1. f:id:phyHirO:20210425160638p:plainの時間変化 すなわち、運動量の変化を示す。

さて、本来欲しかったのはψであるので、上記の結果を代入していく。まずは〜がついているψから求める。

f:id:phyHirO:20210425164939p:plain

ここで、f:id:phyHirO:20210425164653p:plainとする。

よって求めるψは以下の通りとなる。

f:id:phyHirO:20210425164858p:plain

後は具体的に計算する為に、f:id:phyHirO:20210425165623p:plainガウス関数になると決め込んでピーク位置の計算を進めればいいが、参考としている著書ではもっといい方法が載っているので、そちらを用いる。考え方は至ってシンプルで、

1. により、波束の幅が小さい(a>>1)ならば、f:id:phyHirO:20210425171424p:plain付近以外ではでの積分は0とみなせる

2.  f:id:phyHirO:20210425170653p:plainは振動項のため、によってが変化するとf:id:phyHirO:20210425170653p:plainの符号は変わるから積分すると打ち消し合うが、によってが変化しなければf:id:phyHirO:20210425170653p:plainの符号が変化しないので積分が0にならない

 この2つの条件をもとに考えればいい。ここでによって変化しない条件とは、すなわち、振動項f:id:phyHirO:20210425170653p:plainによって変化しないということを意味する(f:id:phyHirO:20210425170653p:plain微分した結果が0ならば、だとわかる)ので、その上でf:id:phyHirO:20210425171424p:plain近傍で満たす条件を課せばいい。すなわち、

f:id:phyHirO:20210425172923p:plain

を満たせばよい。 まず、左辺を計算すると、

α βが中身が分かりにくいと思うので、かなり詳細に記載した)

f:id:phyHirO:20210425180148p:plain

f:id:phyHirO:20210425180405p:plainと置いて、この定数は次元を調べれば速度と同じ次元だと一目瞭然でわかる。右辺は0なので、位置のパラメーター xについて解くと、

f:id:phyHirO:20210425181231p:plain

 これは初期条件に関してf:id:phyHirO:20210425181647p:plain(つまりf:id:phyHirO:20210425181726p:plain),f:id:phyHirO:20210425181819p:plainとした際、1章で話した内容(古典力学の内容)と同じ結果が量子力学の考え方だけで導出できたということである。



6.まとめ

古典力学の扱う運動で一番シンプルな自由落下について、量子力学ではどのように記述されて結果が出てくるのかを解説した(自己満足レベルで)。その中で波として捉えた際の物体の運動は、波束というものと対応付けされて考えることができることを述べた。また、古典力学の結果は量子力学から説明することができることを保証しているエーレンフェストの定理についても簡単にだが触れた。3次元の場合であれば、グリーンの定理から証明されていることが多いが、こちらは余裕があったら記事にしたいなと思う。

 

7.参考文献

・専門書や書籍など

和田純夫著 『なっとくする量子力学の疑問55』

・グラフや挿絵の引用先など

GeoGebra  リンク先:https://www.geogebra.org/graphing?lang=ja

受験のミカタ リンク先:https://juken-mikata.net/how-to/physics/ziyuurakka-kousiki.html

T_NAKAの阿房ブログ リンク先:https://teenaka.at.webry.info/201607/article_22.html

 

終わって一言(完全な独り言)

長かったあああああああああああ!!!!
1月から書いていて、1ヶ月くらいで書き終わるかなと思ったら、4月末!?

文章を書くって、ほんと大変だよね…

まあ、数式を書くのと図示も大変だった。それはそれでも、もっと早く書けるようにしたいな〜。

 

 

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